ミルクアルカリ症候群

大量のカルシウムと制酸剤により引き起こされる相互作用

 20世紀の初め頃に,胃潰瘍の治療法として牛乳(クリーム,タマゴ,シリアルも)とMg製剤(重炭酸,ビスマスも)とを結晶ができないように30分あけて1セットとして1時間おきに飲むというものが発明されました(Sippy, 1915)。Mg製剤などによる胃酸の抑制と,牛乳などによる栄養の向上だけでなく,粘膜を保護することを期待した治療法です。攻撃因子と防御因子をともに治療するという,当時としては有効な治療法と考えられていました。ところが,その治療を受けた患者のなかに,急性の嘔吐やさらには意識障害までみられることが報告されました。調べてみると,これらは潰瘍の再発ではなく,高Ca血症が原因の症状であることが明らかになりました。つまり,牛乳の摂りすぎとアルカリの服用がミックスされて高Ca血症が起きてしまったというわけです。このCaの異常は牛乳によるCa負荷と胃酸中和剤(アルカリ)から起きていることから,「ミルク・アルカリ症候群」と名づけられました(Cope, 1936)。このミルク・アルカリ症候群の病態は,まとめると高Ca血症,高P血症,高Mg血症,高HCO3血症と,それから起こる腎障害です。その3分の1が永続性の腎不全になったといわれます。

     https://med.m-review.co.jp/article_detail?article_id=J0066_0102_0087-0089より

牛乳とカマの相互作用は知ってるけどその機序がよくわからない。調べる

腎臓におけるカルシウム、マグネシウム代謝

 

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https://www.jsn.or.jp/journal/document/50_2/091-096.pdfより

とってもわかりやすい。TALはヘンレループ DCTCNTは遠位尿細管。

 

ヘンレループにおいてNa,K、Clは共輸送系によって再吸収される。このときカリウムはROMKによってある程度尿管側に排泄される。ループ利尿薬はこれを阻害し、尿管内の陽子電荷を上げることによってCa,Mgイオンの吸収を阻害するため低カルシウム血症になる。

高Ca,Mg血症だと血管側のCaSR(カルシウム依存性調節受容体)が活性化され、カリウムの排泄チャネルを抑制する。そのため電荷はさがり尿管側からの吸収が促進される。ここが肝だね。

さらに補足すると細胞間隙輸送のあいだには密着結合がありクローディン16と呼ばれる撒くたんぱく質を介して通過している。

ちなみにチアジドでは高Ca血症になる。ループを阻害しないので尿管内電荷が下がり吸収効率はそのまま。遠位においては専用のトランスポーターが存在するので吸収低下せず。

なぜ今また騒がれ始めているのか

PPIの登場により胃潰瘍に対する上記の療法は行われなくなった。しかし骨粗鬆症に乳酸カルシウムやアスパラカルシウムなどのカルシウム製剤の投与はよく見られる。また便秘に対して酸化マグネシウムを毎日服用している患者もよく見られる。加齢による腎機能の低下やNSAIDSの慢性服用による腎障害も無視できないことから普段の食事以外での必要以上のカルシウムの摂取は控えるよう指導する必要もある。

大量の牛乳ってどれくらい?

牛乳換算で1Lくらいだそう。そんなに飲めるか。普段の食事量であれば心配する必要はない量。カルシウムは1日600mg~1000mgくらいならとっておっけ。

高カルシウム血症の症状を伝えておいておかしいようなら受診勧告だ!!

悪心・嘔吐、口渇、血圧低下、徐脈、皮膚潮紅、筋力低下、傾眠等